新卒採用

CAINZProject

PROJECT MEMBER

※部署名、肩書はプロジェクト発足当時
  • 清水政良
    2004年入社

    家庭用品部
    事業部長

    清水政良

    Masayoshi Shimizu
  • 山沢渚
    2013年入社

    デザイン企画部
    プロダクトデザイングループ

    山沢渚

    Nagisa Yamasawa
  • 宮尾憲司
    2001年入社

    家庭用品部
    チーフバイヤー

    宮尾憲司

    Kenji Miyao

もし、食器に「高台」がなかったとしたら

食器の底に付いた高台(こうだい)。食器の持ちやすさを向上させ、保温性を高める役割を持つ。だが、これが家事のネックにもなる。食器乾燥機にかけたにもかかわらず、高台の溝に水が溜まり、ここだけがどうにも渇かない。ちょっとした「イラッ」を感じながら、フキンを手にすることが日常茶飯事だ。

「もし、食器に高台がなかったとしたら」——。ライフスタイル事業部の部長として、これまでにも数々の商品開発に携わってきた清水政良は考えた。食器に高台がなかったなら、スタッキングしても嵩張らない。高台に水が溜まることによる「イラッ」を解消できるばかりか、収納性まで向上できる。

もし、食器に「高台」がなかったとしたら

そう考えていた矢先に、清水はとある樹脂容器メーカーと出合う。2018年2月、ドイツのフランクフルトで開催されている世界最大級の国際消費財見本市「アンビエンテ」でのこと。メーカーのブースには白く美しい食器が並び、聞けば、原料は再生PET樹脂。つまりは使用済みペットボトルだ。しかも、電子レンジにも対応しているという。

このメーカーの技術を用いれば、渇きやすく、スタッキングしやすい食器という私のアイデアに、付加価値が生まれます。樹脂製の容器はそもそも軽く、割れにくい。電子レンジへの対応が家事の楽さにつながるのはもちろん、美しい白の食器は食事をおいしく見せてくれます。さらに再生PET樹脂が原料であれば、社会貢献までできる。これはいける。そう確信しました

Masayoshi Shimizu

Masayoshi Shimizu

渇きやすさ・口当たり・陶器のような高級感

展示会から帰国した清水は、早々に商品開発に乗り出す。まず声を掛けたのが、プロダクトデザインチームの山沢渚だ。「食器から高台をなくし、家事の不便を解消したい。原料には再生PET樹脂を用い、色は美しい白」という清水の依頼を受け、山沢が立てたコンセプトは「渇きやすさ・口当たり・高級感」の3つ。

くらしの『イラッ』を解消するための渇きやすさを大前提に、食器である以上、口当たりも考慮しなくてはいけません。そして、食事のおいしさは味覚だけでなく、視覚や触覚にも左右されます。清水の案にあった美しい白というカラーリングはもちろん、陶器のようなルックスと手触りが必要だと考えました

Nagisa Yamasawa

Nagisa Yamasawa

山沢は製品の第一設計図となるデザインラフを描くに当たり、くらしの動作を繰り返し確認。戸棚から食器を取り出し、料理を盛り付け、テーブルに並べ、食器を持っては味わい、洗い、渇かし、最後には戸棚にしまう。この流れをいかにスムーズに、いかに快適にするかがプロダクトデザインの肝だからだ。

その結果、山沢が打ち出したデザインには、わずかな高台がある。高台をゼロにしては食器らしさが損なわれ、持ちやすさも低減してしまう。そこで水が溜まりづらいギリギリの高さを見極めるとともに、器の底にゼロコンマレベルのカーブをプラス。これなら水が滑り落ち、スタッキングのしやすさも保たれる。

渇きやすさ・口当たり・陶器のような高級感

そして、食器の表面にはオリジナルのシボ加工。シボ加工とは、製品の表面に施すちりめん模様のこと。シボ加工によって食器の表面に独特の手触りが生まれ、口当たりも優しくなる。このシボ加工がコンセプトのひとつである「高級感」につながり、さらには手に持ったときの滑り止め効果も発揮する。

渇きやすさ・口当たり・陶器のような高級感

ペットボトルが食器に生まれ変わる割合は、わずか2%

「私の期待を優に超えるデザインでした」。清水はそう振り返るが、開発は道半ば。むしろ、ここからが難航した。2019年に第3創業期を迎えたカインズは、当時、組織の拡大と変革を推し進める過渡期。それまでは企画立案を任された担当者一人がサプライヤーとの折衝を行い、いわば、ワンマンプレーによって商品化にまで漕ぎづけていた過去がある。

さらなる成長を目指すには、それではいけません。製造から小売までを自社で行うSPAを推進する企業として、各部署がより強くプロフェッショナルの意識を持ち、横断的にチームを組んで商品開発を進める必要があります。『軽スタ』はまさに、カインズの新たなものづくりの姿勢が結実した商品でした

Kenji Miyao

Kenji Miyao

清水が商品開発に乗り出してから約2年。2020年3月に、プロジェクトに新たにジョインしたのがチーフバイヤーの宮尾憲司。商品の買い付けや商品管理を担当し、カインズにある膨大な商品を知り尽くす立場にある。そうしたポジションを強みに、各部署の橋渡しとマネジメントを担った形だ。

ペットボトルが食器に生まれ変わる割合は、わずか2%

各部署が横断的にチームを組めばこそ、それぞれの知見やこだわりがぶつかり合い、火花を散らすこともある。その火種となった代表例が、後に『軽スタ』の評価を押し上げることとなる再生PET樹脂原料だ。これが何に生まれ変わるかというと、その多くが繊維。食器にリサイクルされる割合は、当時、全体のわずか2%。

それだけに指針とすべく前例がほとんどなく、品質管理も価格設定も暗中模索。新しい挑戦への反動として品質管理に無理が生じれば、お客様の安全を損ないかねない。これは、お客様のくらしに密着する価格設定においても同様だ。さらには原料の特殊さゆえに、金型製作に掛かる費用も高額となった。

再生PET樹脂が原料なら、またひとつ枠をこえられる

「本当に再生PET樹脂を原料にするのか、そもそも稟議は通るのか」——。いくつかの部署から懸念の声が上がった。

再生PET樹脂が原料なら、またひとつ枠をこえられる

懸念の声は、お客様のことを思えばこそ。しかし、私は『軽スタ』のアイデアを思いついた段階から、この商品がお客様の助けになることを確信していました。同時に『軽スタ』を再生PET樹脂という原料で世に送り出せたなら、カインズはまたひとつ枠をこえられる。お客様の不便を解消しながら、同時に環境保全のお手伝いもできるからです

Masayoshi Shimizu

Masayoshi Shimizu

商品開発の稟議を通すためには、チーム全体の足並みが揃わなくてはいけない。それは各部署のメンバーが議論を重ね、たったひとつの最適解を導き出すことを意味する。お客様の不便を解消するデザインも、それを形にする製造技術も、お客様の安全な使用を担保する品質管理も、お客様が手に取りやすい価格設定も、すべてに納得感ある最適解だ。

この最適解を導き出すため、宮尾は『軽スタ』が核とすべき要素を「低価格と軽さ」の2つに絞った。なぜなら「低価格と軽さ」こそが、お客様のくらしに最も密接する要素だからだ。とは言え、ほかの要素を妥協するわけではない。議論が難航したときには「低価格と軽さ」という軸に立ち返る。そのための指針だ。

再生PET樹脂が原料なら、またひとつ枠をこえられる
再生PET樹脂が原料なら、またひとつ枠をこえられる

同時に清水は新たな挑戦となる再生PET樹脂への懸念を払拭するため、チームのメンバーをペットボトルの洗浄工場に案内し、いかに衛生が保たれているかを説いた。お客様のくらしを第一に考えた「低価格と軽さ」と再生PET樹脂原料。リサイクル原料を用いた新たな挑戦もまた、環境保全という大きな枠組みから、お客様のくらしに還元されていく。

お客様第一の視点と、環境保全にも目を向けた社会貢献の視点。この両輪が各部署の納得感を引き出し、ついに稟議が通る。金型製造にかかる高額な費用も、投資の価値を認められた形だ。つまりは本格的な製造に向けたGOサイン。

再生PET樹脂が原料なら、またひとつ枠をこえられる
再生PET樹脂が原料なら、またひとつ枠をこえられる

危機を救った、横断的チームの知見とコネクション

金型の発注前、3Dプリンターによる試作を重ねていた段階から心配されていたのが、陶器のような高級感を打ち出すためのシボ加工。度重なる試作によって懸念は解消されたかに思えたが、完成した金型による製品サンプルは、理想にはほど遠いシボの仕上がりだったのだ。

そもそもの高額投資。二度、同じ投資を行うことは容易ではない。宮尾は頭を抱えたが、プロダクトデザインを担当した山沢は、けっして引き下がらない。このまま首を縦に振っては、シボ加工による陶器のようなルックスと手触りを妥協することになる。

危機を救った、横断的チームの知見とコネクション
危機を救った、横断的チームの知見とコネクション

正直、お先真っ暗の気分になりました。でも、ここで各部署が横断的にチームを組むことの強みが生きたのです。この金型をどうすべきなのか。ひざを突き合わせて議論したところ、結論は作り直しの必要はない、修正できる。各部署のプロフェッショナルな知見と各々のコネクションを持ち寄らなければ、導き出せない答えでした

Kenji Miyao

Kenji Miyao

かくして2021年4月、ついに『軽スタ』の発売に至る。清水がアイデアを思いつき、再生PET樹脂の原料に出合った2018年3月から3年後のことだ。『軽スタ』は順調に売上を伸ばすとともに、国内外複数のデザイン賞を受賞している。

危機を救った、横断的チームの知見とコネクション

高く評価された、シボ加工と再生PET樹脂原料

『軽スタ』に対する高い評価の理由は、樹脂製でありながら陶器の手触りを感じさせるシボ加工。それに環境に配慮した再生PET樹脂原料という点だ。どちらも譲れないこだわりであり、議論と試行錯誤を繰り返した点でもある。清水・山沢・宮尾の三人は「妥協しなくて良かった」と口を揃え、それぞれにこう振り返る。『軽スタ』に込められた、三者三様の想いだ。

高く評価された、シボ加工と再生PET樹脂原料
  • 清水政良
    2004年入社

    家庭用品部
    事業部長

    清水政良

    Masayoshi Shimizu

    商品開発において最も大事なのは、お客様の不便を改善するという視点と熱意です。この視点と熱意を原点に、開発を進める製品に絶対に自信を持つこと。『軽スタ』に関してもアイデアを思いついた段階から、私には確固たる自信がありました。くらしを改善するという絶対の自信を持ち、覚悟を持って挑む。『軽スタ』は、そうした姿勢の結晶です。

  • 山沢渚
    2013年入社

    デザイン企画部
    プロダクトデザイングループ

    山沢渚

    Nagisa Yamasawa

    プロダクトデザインとは、問題解決です。形の美しさを追求するだけでは、プロダクトデザインとは言えません。お客様が感じている不便さは、くらしの小さな問題点。その問題を解決すべき細部までこだわることが、プロダクトデザインではないでしょうか。

  • 宮尾憲司
    2001年入社

    家庭用品部
    チーフバイヤー

    宮尾憲司

    Kenji Miyao

    私はマネジメントの立場として『軽スタ』の開発に携わりましたが、常に肝に銘じていたのが「信じる」ことです。各部署のメンバーが持つ知見と技術に信頼を寄せ、その知見と技術に委ねる。この信頼感が横断的なチームの一体感を醸成し、一人ひとりの能力を発揮させることにもつながる。『軽スタ』は、そのことを再確認させてくれた商品です。